jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
その直後、カメラマンの呻き声が聞こえた。
(なっ、何をしたの!?)
わたしの不安そうな気持ちに勘付いたのだろう、香さんはマイルドな慰めの言葉を掛けてきた。
「蕾、心配しなくていいからね。少し、悪戯をしただけさ。それくらいの天罰は受けるべきだろう?」
(ど・・・・・・どれくらいの天罰?)
あたふた考えているうちに、シャッター音が数回鳴り響いた。
「看板娘が撮れたよ。さぁ、用件が済んだなら、とっとと帰ってくれないかな? 邪魔だよ、君・・・・・・」
今度は、カメラマンの叫び声が店内に響いた。
そのあと、ドタバタと扉の方へ逃げる音と、胴間声が聞こえてきた。
「こっ、こんな店、だっ、誰が来るかよ・・・・・・!」
もちろん、カメラマンのコメントは、香さんの癪に障った。
障ったというか、鷲掴みしたと言ったほうが合っているかもしれない。
「あなたのような下品なお客は来ませんよ。この店を汚すような記事を書いたら、僕は君に何をしでかすか分からないよ・・・・・・覚悟しておいて・・・・・・」
きっと、香さんは凄まじい形相を張り付けているのだろう。
カメラマンは、小さな叫び声をあげながら、逃げていったようだ。
それでも、わたしは目が開けられなかった。
見知らぬ男に襲われかけて、乱された格好のわたし、簡単に心を開いてしまった、警戒心の欠けた愚かなわたし・・・・・・。
きっと、香さんに嫌われてしまった。
恐怖から解放されたにも関わらず、本物の恐怖を目の当たりにした気分だった。
(カオルサンニキラワレルコトガ、イチバンコワイ)
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