jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】
そのとき、急に全身に振動が伝わってきたかと思うと、それは瞬時に動かぬ熱となった。
香さんはわたしを抱き締めていた。
こんなに強く真剣に抱き締められたのは、初めて出会ったとき以来だろう。
しかも、暗闇の中で、こんなに広面積が触れ合ったのは初めてだった。
冗談抜きの本気さとエロさが、わたしの身も心も支配していった。
抱かれただけで、体内から蜜が溢れ出すわたしは、きっと重傷だ。
秀斗のときは、恐怖から鳥肌が立ち、体も心からも熱が奪われていく。
なのに、香さんからは愛しさが生まれてくるのだ。
そう、いつもいつも、香さんといると温かいものしか生まれてこない。
だから、わたしの望みは1つ、罪悪感だけ、この邪悪な罪悪感だけが消えてなくなること。
悲惨なことに、根源である自分が邪悪だとは思えないのだ。
それは、愛しすぎているからこその、我がままだろう。
結局のところ、わたしも香さんも、マインド・リニューアルしなければ、罪悪感は消えていかないだろう。


「僕は蕾が欲しいよ。奪ってしまいたい、心だけじゃなくて体も全部・・・・・・だけど、僕は蕾を失いたくない。これ以上悪に染めたくはない。出会ったときから、気持ちは変わっていないよ。愛しているよ」
更に力を込めてきた香さんの愛を感じながら、わたしは出会った当初よりも、力強く香さんを抱き締めた。
今日の彼は、ビクともしなかった。
「暗闇の中、こんなちっぽけな何でも屋で、僕たちが愛を紡いでいるなんて誰も知りやしないよ。ごめん、蕾・・・・・・」
そう呟いた香さんの顔がわたしに近付いてきたのを感じた。
唇が表面で触れ合った。

(香さん・・・・・・愛しています・・・・・・)
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