光の思い出 - happiness&unhappiness -
2人が私の存在に気付いて驚いたときにはもう、孝太は見事にぶっ倒れていた。
女子のパンチをくらって倒れるなんて弱すぎるだろう……。
孝太は殴った私もびっくりするぐらいの軟弱男だった。いくらイケメンともてはやされても、こんな体力不足ではさすがにダメだろ。
呆れながら孝太を見下ろす私の横で、明らかにぶりっ子タイプのキャピキャピ女が、「キャー!」なんていう悲鳴を出す。
すぐに孝太に駆け寄らないところを見ると、こいつもなかなか薄情なやつだ。
「いってぇー……」
孝太が頬を両手で押さえながらヨロヨロと立ち上がる。そこでやっと女が「大丈夫?」と心配そうに尋ねた。わざとらしいぞこの野郎。
「……有美、一体何のつもりだよ」
孝太は女を安心させるように笑顔を向けたあと、私の姿を見て不機嫌そうに顔を歪めた。
これでもコイツ、一応私の彼氏なんですよね?
昨日優しい笑顔を浮かべてくれたツリーの前で、今日はすごく嫌そうにしてるんですけど。
しかもそこに突っ立っている女じゃなくて私を睨むのか!
「それはこっちの台詞なんだけど」
「はぁ? 意味分かんねぇし。つうか、マジでいてぇ」
「痛いのはこっちの心だよ!」
小さく叫んで、今度は胸を殴ってやった。だけど思った以上に力が入らなくて、小さな拳はポスッと間抜けな音を立てて孝太の胸に当たっただけ。
視界がぼやける。それは紛れもなく涙で、今になって急に悔しさが込み上げてきた。
情けない。威勢がいいのは最初だけ。
悲しい気持ちを押し殺すように怒りだけを前面に出したというのに、それももうタイムオーバーだった。