光の思い出 - happiness&unhappiness -
下を向くと、ポタッと大きな雫が地面に落ちた。
こんな最低なやつの前だけでは泣きたくなかったのに……。
おまけに修羅場に気付いた周りのカップルが騒ぎ出す。
好奇と憐みの視線が一気に私たちに集中した。
気が付いたら私は、その場を走り去っていた。
孝太に負けたわけではない。単に逃げただけ。
あんな状況で平然を装っていられるほどの度胸は持っていなかったし、何よりももう、あんな最低男のことなどどうでもいい。
殴れたことだし、それでちょっとは仕返しをしたつもりだった。
あとから知ったことだけど、孝太は飽きるとすぐに浮気をするようなやつだった。
私と付き合ったきっかけもその一つで、その次の相手があのキャピキャピ女。
軟弱でろくでなし男だなんて、どうして最初に気付けなかったんだろう。
かっこいいと有名な孝太から告白されただけで浮かれて、大事なところを見落としていた私も十分どうかしていたと、今なら思える。
*
「……ほんと、はぐれてくれほうがマシだった」
あの頃よりも大人びた横顔を睨む。
どうして最悪なクリスマスの思い出を作ってくれたろくでなし男と、その思い出のツリーを見ていなくちゃいけないのだろう。
これなら一人ではぐれてイルミネーションだけ堪能して、さっさと帰った方がまだマシだ。
でも、何故か足が動かない。目の前のツリーを見ていると、どうしても動けなくなってしまう。
嫌な思い出が宿ったツリー。それなのにあの頃と変わらない光の輝きに、後ろ髪を引かれてしまう。