雪の足跡《Berry's cafe版》
何故二つも、しかも何故嫌がってた雪の結晶のモチーフを選んだのか分からない。もう、分からないことだらけで。その雪のピアスを耳に当てて鏡を見る。八木橋が怒ったような困ったような顔をして私の耳に触れた時のことを思い出した。チョコレート味のキス、大きな手の平で私を包むように抱いてくれたこと、終えた後に優しく髪を梳いた八木橋を鮮明に思い出した。一度目の旅行で抱いてくれた、二度目の旅行でキスされた、三度目の今回の旅行では手を繋がれた、レッスン代も返されてもう会う理由もなくなってもう四度目の旅行はないかもしれない。段々と後退してる八木橋との関係に寂しくなる。もう会えないかもしれない。この後礼を言うために電話をしたら八木橋とは終わる。昨夜、遊びだと抱かれた方がマシだったろうか。せめてもう一度、八木橋の背中にしがみついた方がよかっただろうか。きっとこのピアスを見る度に八木橋の顔を体を思い出してしまう。プレゼントなんてもらわなかった方がよかった。私はピアスを箱にしまい、引き出しの中に隠すように押し込んだ。
さっさと電話してしまおう、さっさと用件を済ませて八木橋のことはキレイサッパリ忘れよう、そう思って携帯を出した。画面を眺める。待受画面が急に黒く反転する。着信するときの画面に切り替わり着信音が鳴り響いた。画面には八木橋の名が浮かんでいる。私が掛けようとしていたのを察知して八木橋が掛けたみたいに、以心伝心かのように八木橋からの着信。八木橋は最後の最後まで、人を惑わすんだろう。