雪の足跡《Berry's cafe版》

 板を履いて八木橋の後ろに続く。さっきまで菜々子ちゃんと和やかに喋っていた癖に無口になる。狡い……。

 八木橋の大きい背中。お揃いのウェア。板もストックもブーツも。こうして一緒に滑るのは、あの旅行以来かもしれない。八木橋を異性だと意識したあの日、何度も何度も説明され、怒鳴られ、八木橋の滑りを覚えた。


「ヤギ……」


 八木橋は気付かないのか、そのままリフト乗り場に足を進める。あの時と同じように辺りの客はペアルックの私達に道を譲る。二人でリフトに乗り込んだ。二人とも沈黙する。さっき無視されて、私はまた声を掛けるのが怖かった。声を掛けたって何を話せばいいか分からない。ただリフトのロープの軋む音、スピーカーから流れる曲を聞いてるしかなかった。

 リフトを降りる。脇で準備体操をするように上体を捻ったり、足を前後に揺らしたりする。ヤギが滑り出す。私は跡を追う。八木橋の綺麗でブレのないフォームを見ながら滑る。春の重い雪など関係ないと言わんばかりに滑らかに下りていく。今シーズンも終わりが近付いている。来年もこの人の後ろ姿を見ながら滑ることは出来るんだろうか。


「ヤギ」


 滑る八木橋に呟くように話し掛けても聞こえない。来年と言わず、再来年もその次もその次の年も……。
< 179 / 412 >

この作品をシェア

pagetop