雪の足跡《Berry's cafe版》
化粧が落ちてるのを見られたくなかった。泣いてるのを見られたくなかった。
「……大丈夫だから」
それを言うのが精一杯だった。曇ったゴーグルから目の前にいた人物が遠くなるのが見えた。私は化粧室に向かい、化粧を直した。汗をかいて落ちるのがイヤでアイメイクはしてない。だからファンデーションが落ちただけ。涙の筋が何本も出来て、鼻を擦ったからそこだけ赤くて、自分でも鏡から目を逸らしたくなるくらい恥ずかしかった。
泣くのは何年振りだろう。父の告別式以来。最後に火葬場でお別れをして扉が閉まった瞬間、私は咄嗟に扉に向かった。閉めないで!、焼いちゃやだ!、と喚いて扉を叩いた。泣き崩れた。誰が見てるなんて気にも留めなかった。
入念に化粧を直す。口紅にグロスも重ねた。化粧室を出てレストランに向かう。八木橋は先に席に着いて窓の外を眺めてた。何て言おう、ごめんなさいも癪だし、必死に教えてくれた先生に厳しすぎ!とイチャモンをつけるのも自分が子供みたいで癪だし。そんなことを考えて何も思い付かないまま席に到着してしまって、私は無言でテーブルにグローブとゴーグルを置いた。きっと八木橋が私をからかうように場を和ませてくれるって期待した。
「……コーヒーでいいか?」
八木橋はボソリと言うと逃げるように席を立った。
やっぱりバツが悪かったんだろうか。期待は裏切られた。アイツの背中を目で追う。上のジャケットは既に脱いで黒いタートルに釣り紐が両肩に掛けられている。幅の広い背中、ガッチリとした肩、私の2倍はありそうな二の腕。きっとオフシーズンも鍛えてる。そうじゃなきゃ、あんなに颯爽な滑りは出来ないもの。何となくずっと見つめる。父と重ねているのかもしれない。八木橋がトレーにコーヒーを乗せ、こっちに向かってくる。逆パンダに焼けた顔。無愛想な目。視線はたまに鋭くて私は動けなくなる。
八木橋も無言で椅子に腰掛ける。何も言わずにトレーからコーヒーの入ったカップを私の前に置く。不躾にポーションのミルクとスティックシュガーを置く。