雪の足跡《Berry's cafe版》

「いつかは景気も落ちる。特に目立つ取り柄も無い僕は地味でも堅実路線と思いまして」


 そして予想通りバブルは崩壊した。給料を自慢していた学友たちは給料が下がったし、中には職を失った人もいた。その頃から柏田さんのモテ期は到来した。


「毎週のように合コンに誘われました。もうすぐ30歳、勿論独身でしたし、女の子とは誰かひとりとは携帯番号も交換しました」


 社会人になって落ち着いて洒落たバーや小料理屋も覚えた。合コンで引っ掛けた女の子をそういった店に誘い、そうして仲良くなってドライブや映画にも連れ出した。


「でもね、何かが違うと感じましたよ」
「違う?」


 女の子とデートしても聞かれるのは家族構成や年収のことばかり。昔どんなアイドルが好きだったかとか初めて買ったレコードとかは聞かれなかった。


「アイドル、レコード……。柏田さんやっぱりオタク……」
「例えば、ですよ」


 自分もそろそろ結婚を意識していたし、女の子も当然結婚は意識していたとは思う、と話を続ける。年収も家族構成も結婚には大切な条件、だから女の子の質問がそこに集中するのは理解出来た。でも、ふと思った。この女の子は自分に興味があるのか?、僕の男という部分に興味があるのか……。僕という人間ではなく、僕のこれから得られるお金に興味があるんじゃないのか??

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