雪の足跡《Berry's cafe版》

 そこに気付いた柏田さんはそれ以来合コンに参加するのを辞めた。


「僕の話はこれくらいにして。青山さんはどうして?」
「これと言って独身にこだわってた訳じゃなくて……」


 私立四大を出て契約社員、両親に申し訳ないのと自分のプライドがあって正社員になるまではと頑張っていたこと、24の時に父を亡くしてそれどころじゃなかったこと、スキーオタクであまり男性には興味が無かったことを説明した。


「それだけですか?」
「はい」
「パキスタン、ウズベキスタン、カザフスタン。ご存知ですか?」
「は?? ええ、名前ぐらいは……」


 今日の話題は国名。中東に多い“スタン”の国名。頭に付くのは民族の名でそのあとに“住むべき地域”を表す“イスタン”を付けて、その民族が住むべき場所という意味だと話す。私の知らない雑学、頷いて聞いてるうちに料理が運ばれてきた。柏田さんの言う通り、アイドルも国名も彼の常識程度の知識なんだと思った。

 料理を食べ終えてケーキ棚に向かう。ベイクド、ムース、レアチーズ。チーズと名の付くケーキは片っ端から皿に乗せる。視界の中にチョコケーキも入った。八木橋が前菜の前に食べてたのと同じ。


「ヤギ……」


 それも皿に乗せて席に戻る。チョコの甘い香りに八木橋の男臭い匂いを思い出した。ううん、忘れる。忘れてやる……。その皿いっぱいに乗せたケーキを平らげ、お代わりをする。食べて食べて忘れてやる。

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