雪の足跡《Berry's cafe版》

 駐車場に車を置いてロビーに行く。ベルスタッフの支度をした酒井さんは私を見付けて挨拶をした。きっとこれも最後の光景だと目に焼き付ける。


「あれ、荷物は?」
「今日は日帰りだから」


 またまた~、と酒井さんは笑い、フロントの従業員と会話を始めた。そしてその従業員から鍵を預かると私に差し出した。


「青山さん、はい」
「え?」
「あ……ごめん、もしかしてヤギのサプライズだった?」


 差し出された鍵は3桁の部屋番号が刻印されたコンドミニアム棟の鍵。酒井さんは、ごめんね、俺、またやっちゃったね、と頭をかいた。


「てっきりお祝いに来たんだと思って」
「お祝い?」
「明日ヤギの誕生日だからさ」
「……」


 知らなかった、八木橋の誕生日。何も用意してない……。でも別れたんだし、お祝いする義理もない。部屋だって夕方に呼び出したお詫びのつもりだろうと思った。

 携帯が鳴る。酒井さんから鍵を預かり、礼を言って離れる。画面を見れば知らない10桁の固定電話の番号。とりあえず出る。


「もしもし、オバサン?」


 甲高い女の子の声。


「な、菜々子? 何故私の番号知ってるのよ」
「そんなことより、見たあ?」

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