雪の足跡《Berry's cafe版》
 仕方なく、私は食事を終えてスクールの申し込み用紙に記入した。でもインストラクターの指名欄なんて見当たらなくて。


「あの、八木橋さんを指名したいんですけど……?」


 受付の女性は私の提出した申込書から視線を上げて不思議そうに私を見る。勘違いされてる……?


「え、あの、教えるのが上手って評判を聞きまして……」


 言い訳した。


「……はい、午後のシフトを確認します。お待ちください」


 そう言って彼女は後ろを振り返り、壁面にある一覧表みたいなのを見た。そして、大丈夫です、空いてます、と向き直り私に言う。私が8000円を支払うと、彼女はスクールのゼッケンを私に差し出した。これを付けて13時半にスクールの赤い看板前に来てください、と告げて受付は終わった。

 スクール開始時刻にはまだ早くて、私はスキーを履いてリフトに向かった。リフトのスタッフはあの赤いウェアと色違いダークオリーブ。背中には同じくスキー場の白抜きのロゴが入っている。確かホテルのスタッフは深いグレー。スキー場独特の派手さはなく落ち着いた雰囲気。ホテルもスキー場も経営者が同じだから、どこもかしこも統一感があって心地いい。

 リフトに乗って自分の板を眺める。今年の最新作。この板を履いてる人は少ないと思う。予約した人のみの限定版でシリアルナンバーも刻まれている。春、私はやっと正社員になった。契約社員では半額も出ないボーナスが満額支給される。勿論、仕事量も責任も大きくなるけど嬉しかった。そして夏にはこの板を予約して、冬を心待ちにしていた。

 まずは初心者コースを軽く滑り降りる。小さな子を抱えた親子がたくさんいた。私も子供の頃はこんな風に滑ってたのかなと昔を懐かしむ。視界を前方に戻せば、冬木立の向こうに大きな湖が広がる。耳元を冷たい空気が掠る、風を切るように疾走する。自分が風になったみたい、気持ちがいい……。

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