雪の足跡《Berry's cafe版》

 スクール開始時刻の13時半、看板前に来ると、平屋の建物から続々と赤いウェアのスタッフが出てきた。そしてその“八木橋”というインストラクターも出て来て板を履き、私のところへ一目散にやって来た。


「……ついてきて」


 ボソッと言われた。


「……はい」


 私の返事を聞くと八木橋さんは何も言わずに緩い坂を滑り上がる。ゴーグルを掛けていて表情は分からないけど、頬や口元から笑ってる形跡はない。そういえば携帯を落とした時だって無表情で怒ってるのか怒ってないのかも分からなかった。

 八木橋さんはリフトに向かった。二人乗りのリフト。私をエスコートするように彼は奥のシートに掛けた。“インストラクター”と“生徒”の私達は二人でシートに掛ける。出始めのシートは揺れる。その揺れが治まったところで話し掛けた。


「携帯、すみませんでした」
「いや」
「使えなくて不便でしょう? いつ買いに行かれるんですか」
「明後日」



 私の質問に八木橋さんは片言で答える。


「データは保存してありますか? SDカードかネットとか」
「いや」
「すみません……」


 無表情というより無愛想、やっぱり怒ってるんだろうか。しばらく無言でいる。リフトの無機質な轟音とスピーカーからの音楽だけが耳に入る。リフトを降りると、あっち、と言わんばかりに向かいのリフトに顎をしゃくる。そして2本目のロマンスリフトに乗ると、八木橋さんはボソッと言った。


「ちょうど良かった」
「何が、ですか?」
「携帯。元カノの写真入ってたし」
「なら、尚のこと……」

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