雪の足跡《Berry's cafe版》
「ユキが俺のためにしたのは分かってる。でも俺だってユキのために何かしたかった。結納金も新婚旅行も返上だったし、婚約指輪だって」
八木橋はお代わり用に置かれたポットからコーヒーを注いだ。手の甲には私の歯型の跡。頭に血が昇っていて容赦無く噛んだ。
「せめて車は買ってやりたかった、生活に差し支えるし」
私は何をそこまで怒っていたんだろう。よく考えれば八木橋だって私を思って車を買おうとしたのに。
「飯だって毎日やり繰りしてんだろ、たまには楽させてやりたかったし美味しいモン食わせてやりたかったし」
外食だってケーキだって、八木橋の気遣いだった。慣れない新生活、家事、せめてもの気持ちだった。自宅を空けてばかりで私を一人宿舎に置いてるのもきっと……。
ただただ毎日が不安だった。毎日寂しかった。想像してた新婚生活とは掛け離れていて、疲れていたのかもしれない。それで私は八木橋に八つ当たりしたんだ、って。
「それにユキは」
「え」
「か……可愛いから」
突然に何を言い出すのかと八木橋を見た。恥ずかしそうに私から視線を逸らして窓を見ている。
「澪も可愛かったけど、ユキだってそういうひたむきな所とか意地っ張りな所とか」
私が澪さんのことを引き合いに出したからか、八木橋はそんなことを言い出した。
「怒ると顎にシワが寄って梅干しみたいになるところとか、からかうと噴火するところとか、ケーキ食わせると溶けそうな顔するところとか」