雪の足跡《Berry's cafe版》

「それ褒めてる?」
「当たり前だろ。あ、おいっ」


 ちょっとムカついたから、八木橋のチョコケーキをひと欠片すくって食べてやった。濃厚で香りのいいそれに頬が落ちそうになる。


「ほらその顔」
「えっ」
「ほら今度は顎が梅干し」
「なっ、梅干しじゃないっ」


 八木橋は窓を見ろよと言わんばかりに顎でしゃくる。その暗い窓に映った自分を見てフリーズした、八木橋の言う通り下唇の下に梅干し模様が出来ていた。八木橋は笑いを堪えているのか肩を震わせた。


「ムカつく!」
「上等」
「ふうん」
「あ、おいっ、辞めろよ!」
「美味しいもの食べさせてやりたいんでしょ?」


 私は八木橋の残りのチョコケーキをフォークで突き刺し、自分の皿に乗せた。八木橋はすかさず私のチーズケーキに手を付ける。そうして食べ終えたあと、八木橋はポケットから小さな紙袋を出した。


「やるよ」
「何」


 紙袋には八木橋が研修会に出掛けたスキー場のロゴがプリントされていた。八木橋はそれを開けろと顎でしゃくる。私はそれを開けた。


「あ……」
「ユキそういうの好きだろ」


 中には白いキーホルダーが二つ入っていた。淡いブルーの雪の結晶のモチーフが刻まれていた。スキー場にはありそうな雪のキーホルダー、でも意外にシンプルなものは少ない。八木橋はきっとあちこちのスキー場で探していたんだと思う。


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