雪の足跡《Berry's cafe版》

 高速代とガソリン代を考慮したら元なんか取れないのに、とは思う。


「スキーに来たと思えば、いっか」


 立て続けに来るのは気が引けて、3週間、間を置いた。毎週スキーに行くのは贅沢だし、体力も使うし、と理屈を付けたけど、本当のところは違う。八木橋に会うのが怖かった。お金を受け取ったら、もう会うことがなくなりそうで怖かった。

 それでも踏ん切りがついたのは、今日が私の誕生日だったから。何かする訳じゃない、八木橋に祝ってもらおうなんて考えてる訳じゃない。ただ、重い腰を上げるのにきっかけが欲しかった。母は、誕生日だから早く帰って来なさい、お父さんが待ってるから、と出掛けに言った。毎年私の誕生日には家族でお祝いしてきた習慣がある。私は勿論返事をして家を出た。

 八木橋には連絡していない。のこのこ小遣いをもらいにくるみたいで嫌だった。レッスン代にしがみついてるみたいで。

 1月29日、土曜日。私が生まれた年も土曜日だった。ゲレンデは混んでる。雪の質も量も申し分ない時期。10時。スクール小屋からインストラクターが放出される。でも心なしか数も少ないし、八木橋の姿がない。


「青山さん?」


 声を掛けてきたのは酒井さんだった。こないだはご馳走さまでした、楽しかったね、と挨拶をしてくれた。


「ヤギ探してる?」
「うん……」


 何故だろう、酒井さんにはこうして素直に言えるのに、と思う。

< 95 / 412 >

この作品をシェア

pagetop