おかしな国のアリス
寝ていた兎を私も少し叱った後、急いで帽子屋さんに猫の居る部屋へ案内してもらった。
廊下を歩いて、3つ目のドアの前で止まる。
「ここだよここだよ、アリス!」
にこっ!と笑って帽子屋さんが言う。
これでやっと、物語が成立する…そう思って開かれた扉をくぐり、中へ入る。

部屋にはナイフやら包丁やらが散乱していた。
「…」
「…」
絶句…。
引き裂かれた掛け布団、床に壁、天井に刺さった刃物。食器。

…居るって…生きてるよ…ね…?

唖然とする私たちに、帽子屋さんが慌てて言う。
「ごめんねごめんね…!散らかってて!猫さんが大人しくしなくて…大人しくしなくて…」
でも生きてるよ安心して、と付け足し、帽子屋さんは部屋をうろつきはじめた。

「居ない…居ない…」やっと立ち止まった帽子屋さんが言った。
私たちも部屋をさがしたけど、どこにもそれらしき人は居なかった。
どこに行っちゃったんだろう…帽子屋さんがうなだれていると
「あ…」
ゴミ箱を漁っていた兎が突然声を出す。
「メモです。これは猫の字では?」
ばっ、と帽子屋さんが顔を上げ、兎に近付く。
兎は少したじろぎながら、帽子屋さんにメモを渡す。
そのメモには
『アリスの匂いがしたから行く。帽子屋、その癖絶対直せ』
…と、書いてあった。
どんな嗅覚してるんだ…!
思っていると、急に帽子屋さんが笑い出した。

「あはははははは」
「あはははははは」
「あはははははは」

兎が私の後ろに隠れる。
帽子屋さんが…壊れた…
< 16 / 60 >

この作品をシェア

pagetop