月の絆~最初で最後の運命のあなた~


「悪いけど、マリアは僕のお弁当であって、君にわけるスナック菓子じゃない」


 ヴィヴィアンに示された部屋の扉を開けると、レンはあたしの手を引いて部屋に押し込んだ。


 そして、扉の前に立ち塞がると警告なのか、ヴィヴィアンに低く唸り声を上げている。


 あんなに優しいレンの口から漏れた音に、あたしは驚いた。


 常に意識していなければ、レンが吸血鬼であることをすぐ忘れてしまう。


 それだけ、彼は吸血鬼らしくない。


 顔をさらに青ざめさせたヴィヴィアンは、風のように消えて、残されたのはレンとあたしだけになった。


「悪かったね、不愉快な思いをさせて……礼儀を知らない奴ばっかりなんだ」


 申し訳なさそうに言われて、思わず苦笑いがもれる。本当に、レンは吸血鬼らしくない。


 あたしの中の吸血鬼像は、血統重視で傲慢。大抵の吸血鬼映画に出てくる吸血鬼が、人間を劣った存在だと認識していたから、そう思っていた。


 まあ、まさか実在するとは思っていなかったから仕方がない。


「別に気にしてない。人間が鶏を見て食べ物にしか見えないのと一緒でしょ」


「そうだね、ありがとう。これからは、彼女も気をつけるさ」


「あなた……もしかして、吸血鬼の中でも偉いの?」


 その質間には答えてくれず、ただ肩を竦めて扉を閉めた。





 


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