月の絆~最初で最後の運命のあなた~



「どけ、レイラ」


 そう一言だけ言うと、狼呀は空いている手で女――レイラを横に突き飛ばして進んで行く。


 気まずいのはあたしだ。


 狼呀は前を向いているからいいが、担がれているあたしは、突き飛ばされたレイラと目が合う。


 それだけならまだしも、敵意のこもった目で睨み付けられた。


 まるで、噛み殺そうとでも思っていそうなほど危険だ。


 吸血鬼よりも、もっと野生に近い危険さに背筋が冷える。


 あたしは暴れるのをやめて、連れていかれるがままになった。今は、狼呀の近くのほうが安全なきがしたから。


 大股で歩いている狼呀は、タイミングよく開いたエレベーターに乗っても下ろしてはくれない。


 扉が閉まってもそれは変わらず、一つ変わったとするなら、担がれたことによって捲れたTシャツから覗く素肌を親指で優しく撫でてくることだ。


 くすぐったくて、変な気分になって困る。


 エレベーターが動き出すと、何よりも狭い密室に流れる沈黙が怖かった。





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