月の絆~最初で最後の運命のあなた~


「何してやがる!」


 人間の声なのか、獣の唸り声なのかわからない突然の声に、あたしの意識ははっきりとした。


 声の主は、狼呀だった。


 吸血鬼であるレンを軽々と引き剥がし壁に叩きつけると、まるで荷物のようにあたしを肩に担いで歩き出す。


「ちょっと! 下ろしなさいよ。下ろせったら!」


 両手で拳を作って背中を叩いても、膝で胸を蹴っても、気にした素振りもなく歩いている。


 あたしの体重は軽いとは言えないし、力だって弱くない。


 誰がどう見たって嫌がっているっていうのに、廊下ですれ違う人々は驚いて道を開けていく。
 

 ――少しは不信に思って止めなさいよ!!


 誰も止めようとしない事に腹を立てていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「狼呀! ちょっと、何してんのよ。待ちなさいったら」


 立ち塞がったのは、数十分前に狼呀を心配していた女だ。


 ヴィヴィアンとは、また違ったセクシーボディの持ち主。


 あたしの中では、そう登録されている。






< 52 / 356 >

この作品をシェア

pagetop