優しいキス
「だからあの時…卒業式の後、好きだって言ってくれて嬉しかった」
今でも鮮明に思い出せる。
裏門にあるまだ蕾の桜の木の下。
卒業式の後、私は彼に呼び出されたのだ。
ふざけあって、笑いあって。
意識していたのは私だけだと思っていたのに。
中学生最後で彼は照れくさそうな笑顔をくれた。
「でも“好きだ”って言葉だけで、何も変わらなかったしね。
高校も同じだったけど中学の時と変わらないし」
思い出すのは彼の背中を追っていた私の視線。
男の子から男の人になっていく、彼の背中。
「あんたの気持ちはよくわからないし、友達にはあんたとの仲を取り持てって言われるし。
…散々な高校生活だったわ」
結局。
何も変わらないまま高校3年間が終わり。
私と彼は別々の進路を進んだ。
それでも私たちはたまに連絡を取り合い。
お酒を飲む仲になった。