にゃんこ男子は鉄壁を崩す
ああ、やっぱり。
その続きの言葉はビーグルからは聞けなかった。
多分、いきなり、ミィコと私がタクシーでやってきて自分の目の前でキスしたなどとは言いたくないんだろうな、と思うと、またやってしまった、と思う。
しっかりとしているようでどっか抜けているんだ、私は。鉄壁と言われたこの私もミィコによって少し崩されかけていた。コツコツコツコツ、小さなスコップで小さな穴を掘り進め、逆に私に餌付けをするミィコに壁を壊されつつあるのは自分でも認めざるを得ないところだ。
だからといって誰でもその穴から入り込めるわけじゃない。だけど、今回、私は大馬鹿だ! バッグの中のスマホが鳴っていたことに気がつかないなんて!
「火伊くん、ゴメンネ?電話バックに入れたままだったから、気づかなかったみたい……一緒に店行こうか?」
「はい! 俺、一緒に行ってお店の中までちゃんと送ります!」
『一緒に行こうか』と言ってしまったのは、別にミィコとキスしたのを見られて気まずいと思っているわけじゃない。ただ、単に電話を無視してしまったお詫びだ。
少し元気になった火伊くんをタクシーに乗せて私と火伊くんは『bonheur』に向かったのだった。