にゃんこ男子は鉄壁を崩す


 おそるおそるビーグルの方を見ると泣きそうな顔をしている。もし、犬だったら、耳を伏せて尻尾をだらんと下げて終いにはクゥーンと鳴いて(泣いて)いるんじゃないだろうか。



 もし、犬だったら、抱き寄せて『よぉ~し、よぉし……寂しい思いさせてごめんねぇ』と頭や背中をワシワシ撫で回せばそれで済むけれどビーグルは残念ながら限りなく犬に近い人間だった。



 ミィコは既にバスに乗り込んでここからは見えない。ビーグルは私だけを今、見つめている。だから、助けてくれる人などタクシーの運転手さんも含めていないのだ。



「ひ、火伊さん、こんなところでどうしたの?」



 勿論、ビーグルが私を心配してここへ来てくれたんじゃないかな、ということぐらいはわかっている。でも、一応、もしかしたら、違う要件があってここに立っていたのかもしれない、という僅かな可能性に賭けて聞いてみたわけだ。



「あの……一応、電話はしたんですが。腰痛酷いようだったら、少しでもお役に立てることがあったら、いいなって……。由比子さん、電話に出なかったので、もしかしてバスか電車に乗るためにもう家を出たのかと思いまして……イチかバチかここで待ってたんですけど……」




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