ひとりの夜

「さや、誕生日おめでとう」
「え…」
「初めて、目を見て言えたな」


めったに見せない目尻の下がったその笑顔を、今見せるのはちょっと反則じゃないですか。
いつもは性急に絡めとられるだけの口づけを。
今日は私の反応を楽しむように触れるだけのキスをするなんて、ひどくないですか。
チュッと音をたてて離れた唇は、まだひんやりとしている彼のセーターの胸の辺りに押し付けられて。
玄関先でバスタオルを巻いただけの姿で、服をきた男に抱きしめられているという、なんともアンバランスな構図が出来上がっている。


「誠一さん…服着たいんですけど」
「また脱がすのに?」
「や、でも寒いんで」
「すぐ熱くなるのに?」
「や、まぁ、そうかもしれませんけど…」


なんだかんだと丸め込まれるのはいつものことで。
それでも、ククッと喉を鳴らして「大事なさやが風邪引いたらダメだからな」とかなんとか言いながら、そのまま脱衣所の鏡の前で頭を乾かしてくれる。

……まぁ、服は着せてもらえそうにないけど。

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