ご近所恋愛(笑)
プツリときれた電話。私はため息をついて、もう繋がっていない携帯を見つめた。

電話越しに聞こえたあの声。多分お父さんだろう。


(お姉ちゃん…大丈夫かな…)


「あ、ご飯!」


皆さんを待たせていることに気がつき、慌てて部屋を飛び出す。私だけご飯抜きなんて絶対に嫌だ。

バタバタと階段を駆け降りて、走っていると暗闇で前方が見えなかったせいか、誰かに思いきりぶち当たった。


「うぎゃっ!」


「わっ!」


品のない私の声と共に、少し声の高い男の声。幸いなことに倒れはしなかったので、ぶつけた鼻を摩りながら当たった相手を見た。


「痛いな…ちゃんと前見てくれる?」


そこには、帽子を被った可愛いらしい顔立ちの男がいた。暗くてはっきりとは見えないが、かなりの美形なことは分かる。

その男はこちらを見た瞬間、眉が一気に寄った。


「女…?女が何でここにいるの。まさかストーカー?僕のファンじゃないだろうね」


「はあ?ストーカーなんかじゃありません!何で私がストーカーなんか…!」


いきなりストーカー扱いは酷いと思う。そこまで変態に見えるだろうか。ちょっとショックだ。

それより、ファンってこの人、自意識過剰ではないかと疑ってしまう。

その男はしばらくこちらを睨んでいたが、やがてため息をついて、私に背を向けた。


「別にストーカーじゃないならいいよ。早く消え失せて」


「……」


何でこんなにもイライラするのだろう。金原さんの時並みにイライラさせる人だ。

私は小さくあっかんべーをして、食堂のドアに手をかけた。

だが。


「ちょっと、離してくれない?」


「それはこっちのセリフです。私はここに用があるんですけど」


何故かムカつく男とドアノブに一緒に手を伸ばしていた。

お互いバチバチと火花を散らしていると、不意に目の前のドアが開いた。


「おっと…子猫ちゃんに…遥ちゃんじゃねぇか。お帰り」


「「は?」」


私とムカつく男の声がハモる。

助けを求むように泉さんを見つめると、泉さんはケラケラと笑う。
< 11 / 13 >

この作品をシェア

pagetop