婚カチュ。


窓の外は土砂降りだった。
夜に浮かび上がる街の明かりが、打ち付ける雨に滲んでいる。

希和子が電話をかけに行って優に15分は経過していた。不審に思ってバッグから電話を取り出すと、新着メールの表示がある。文面を確認し、わたしは広瀬さんに向き直った。


「彼女、旦那さんが迎えに来るそうで、帰るみたいです」

「……そうですか」
 

会場の壁際に設置された椅子に並んで座り、広瀬さんはグラスに揺らめく白ワインに口をつけた。
 

ステージではさまざまな余興が行われている。
流行りに疎いわたしでも知っている有名な歌手が曲を披露し、現在は若い男性のスピリチュアル・マジックなるショーが人々の関心を集めていた。

そんな賑わいのなかで広瀬さんはつぶやく。


「実は、僕も事業をやっているんです」
 

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