婚カチュ。


「それで、どうしてフェリースでアドバイザーをやってるんですか?」
 

仕事内容について一通り話を聞いたあと、わたしは尋ねた。
 
本業で稼ぎをあげている人が、どうして小さな結婚相談所でアドバイザーなんかをしているのか、どうしても腑に落ちない。
 

広瀬さんは何度目かのため息をついた。


「社長に頼まれたんです」

「社長って……桜田さん?」

「ええ。僕の仕事はわりと時間の融通が利くので、空いてるときにコーディネーターをやってくれと、なかば強制的に」
 

副業みたいなものです、と言うとグラスを揺らした。
透明なグラスの中で淡い黄色の液体がなめらかにすべる。
 

ふと、きれいにネイルの施された小指が思い出された。
桜田さんの艶やかな唇に触れた、あの華奢な指先。


「広瀬さんと桜田さんて」
 
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