婚カチュ。
まっすぐ見つめ返され、口をつぐむ。
年離れたふたりの関係はもしかすると公にしてはいけないものなのかもしれない。
わたしに牽制をかけてきた桜田さんも、内緒よ、と可愛らしく微笑んでいた。
「桜田さんて、結婚して――」
不倫という言葉が一瞬頭をよぎったけれど、すぐに打ち消す。
わたしと彼女はあの焼き鳥屋で「男なんて必要ない」という話題で盛り上がったのだ。
「ないですよね」
「ええ、独身ですよあのひとは」
あのひと、という呼び方にすこしだけ胸がうずく。一見冷めた言い回しは、なんとなく遠まわしの愛情表現のようにも聞こえる。
あのひと。
特別な、あのひと。