婚カチュ。

3  ◇ ◇ ◇

 
わたしの記憶が正しければ、失恋で傷ついた心を癒すための特効薬は、新しい恋をおいて他にない。
 
でもその特効薬が効いていたのは学生のときだけかもしれないし、そもそもわたしはあまり惚れやすいタイプではない。
そうなると、時間が解決してくれるまで、この胸をえぐるような想いとともに過ごさなければいけないのかもしれない。

 

よく晴れた日曜日だった。

抜けるような青空を背景に街路樹が整然と並んでいる。まるでポストカードのようにくっきりとした景色のなかで、私は腕時計に目を落とした。
約束の時間を10分経過している。

待ち合わせの広場にはいろんな人間がいた。

わたしと同じように時計を気にしている女性、木陰のベンチで昼食をとっている作業服の男性、ただの通行人に、散歩中の老夫婦、家族連れ、ゴムボールで遊ぶ子供たち。


穏やかな休日にふさわしい情景に緊張感を与えたのは広場横の道路に乗りつけたタクシーだった。
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