婚カチュ。


後部座席から出てきた男性が大股で私に近づいてくる。

余裕を感じられない、どこか張り詰めた様子に、広場にいた人間たちが注意を向ける。それぐらい、彼の登場は異質だった。


たとえばそれは、SPかあるいは殺し屋がターゲットに接近するような様相だったと思う。

スーツ姿の男が厳しい表情のまま早足で女性に近づく、という状況は日常生活のなかで頻繁に起こることではない。

だからわたしは完全に声をかけるタイミングを失い、こちらに向かってくる彼を呆然と見つめていた。

そうして戸田さんは、いきなりわたしにタックルをかましたのである。
 


 
 
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