婚カチュ。
店員同士の呪文のような掛け声が店内に威勢よく響きわたる。
奥まったテーブル席で戸田さんはチョコレート・ドリンクを無心に啜っていた。
一気に半分ほど飲み終えると、人心地ついたように吐息を漏らす。
「いや、本当に、申し訳ない」
そう言って頭を下げる彼はずいぶん疲れた様子だった。
日曜日にもかかわらずスーツに革靴という出で立ちで、前回会ったときよりも顔色が悪い。
「今日、お仕事だったんですか?」
「ええ、まったく申し訳ない、せっかくのデートなのに遅刻してしまって」
「いえ、それはかまわないですけど……大丈夫ですか」
広場での彼は尋常ではなかった。
一点を見つめたまままっすぐわたしに向かってきたときの表情は、生気がまったく感じられなかった。
「どこかお身体の具合でも悪いんじゃ」
わたしの言葉に、彼はあわてて首を振った。
「いえ、一時的な低血糖ですから、ご心配なく」
「低血糖?」
「はは、ちょっと頭を使いすぎたかな」
あっけらかんと言って彼はストローに口をつける。