婚カチュ。


目を戻すと、戸田さんは口を横に引き伸ばしてにんまりと笑った。


「私はあなたの好みではなかったかな?」

「いえ、素敵だと思いますよ。全体的に」
 

とっさに答えると、彼は小さく噴きだした。


「全体的に、ですか」
 

笑われて顔が熱くなる。


「あなたは正直なひとだ」






予約していたレストランに場所を移し、ランチのコースを注文する。
アルコールをすすめられたけれど、戸田さんは飲まないというのでわたしも遠慮した。彼は夕方からまた仕事があるのだという。


「日曜しか面談時間が取れないというクライアントがいまして」
 

彼は困ったように笑って前菜の皿にフォークを下ろす。


「本当にお忙しいんですね」
 

超高層オフィスビルの43階にあるフレンチレストランは、窓の外に東京タワーを望むことができた。
いまは大小のビルが折り重なってごみごみした印象だけれど、日が落ちれば息を呑むような夜景が広がるに違いない。


「こうやって見ると、小さいな」
 

わたしの視線を追って、戸田さんがつぶやいた。

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