婚カチュ。


東京タワーは333m、スカイツリーは634mと、数値で比較することはあっても、実際に見比べたわけではないから、周囲を含めての景観について考えたことはなかった。


「まあ、比べることに意味なんてありませんがね。たんに個人の好みの話ですから。おまけに電波塔は人にどう思われようが意に介さない」
 

くすくすと笑い、戸田さんはナプキンで口元をぬぐった。


「しかし東京タワーが見られなくなるのは残念だなあ」


ギャルソンが前菜の皿を下げ、代わりにつばの広い帽子を逆さまにしたような陶器をテーブルに並べた。


「オレキエッテと香味野菜のクラムチャウダーでございます」
 

スマートに一礼をすると、彼は近くの年配夫婦のテーブルに向かい、空になったグラスに水を注ぐ。それを見送り、戸田さんは口を開いた。


「私はいま、事務所で企業相手の仕事を担当しています」

「企業相手?」


尋ねたわたしに彼はうなずく。

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