婚カチュ。
「顧問先企業の紛争だとか法律相談だとかです。そういった仕事は当然ながら都市に集中するので青森に移れば相談内容はもっとずっと身近なものに変わるでしょう。たとえば交通事故だとか離婚問題、借金などの債務整理なんかかな」
クラムチャウダーにスプーンを沈めながら、わたしは彼の話に耳を傾けた。
「そうなれば当然単価が安いので、独立するとはいっても東京にいるときほどの華やかな生活は送れない」
「……なぜ、青森に帰ろうと思ったんですか?」
都市に仕事が集中しているなら、単純に考えて東京で働いていたほうが有益なんじゃないかと疑問に思った。
司法試験に受かった地方出身者の多くは、地元に戻らず東京などの都市で働いているのではないのだろうか。
戸田さんは静かに目を閉じた。そしてゆっくりうなずく。
まるで自分に言い聞かせているような仕草だった。
「疲れたんです、東京に」
穏やかに澄んだ瞳は青森で培ったものだろうか。
大海で泳いでいた魚が狭い水槽に放り込まれてしまったように、瞳だけを黒く光らせて、必死に出口を探そうとしている。