婚カチュ。
笑ってる?
そう思ってよく見ると、押さえた手の隙間がきらきらと濡れていた。
ぎょっとする。
「ちょ、どうしたんですか」
かばんからハンカチを取り出して差し出す。
彼は目を覆ったまま左手でそれを受け取ると、しくしくと泣き出した。
目元を隠しているため周囲からは分からないだろうけど、大の男に泣かれたのは初めてだ。
すこし引いて見ていると、
「も、申し訳ない。感動、してしまって」
戸田さんは声を詰まらせながらつぶやいた。
「やっぱり、あなたが、私の東京タワーだ」
「……それはあんまり嬉しくないですけど」
わたしはため息をついた。
きっと戸田さんの表面だけで惹かれた女性たちは田舎暮らしをほのめかされたり弱々しい告白を真に受けたりして、彼の元から去ったのだろう。
表層をやぶって奥まで見抜ける女でなければ、彼は欲しなかったのだ。
この様子だと、地方とはいえ収入だってそれなりに見込めるのかもしれない。
「二ノ宮さん。お願いします。正式に、私とお付き合いしてください」
赤い目の弁護士先生は、瞳に紅白の電波塔を映しこんで、訴えるようにわたしに頭を下げた。