婚カチュ。
週末の焼き鳥専門店は空いていた。
オフィス街の裏通りという場所柄、土日祝日は極端に人の入りが少ない。
奥のテーブル席に着くと、広瀬さんは苦い顔をした。
「彼女は『青年実業家』に群がる女性のひとりです」
テーブルにはおしぼりと水、それからアドバイザー仕様のメガネが置かれている。
叩かれたときに地面に落ちたらしく黒いフレームがすこし曲がっていた。
「いつもは相手にしないんですけど。フェリースまで追いかけてこられたらさすがに狂気の沙汰ですよね。だから、迷惑だ、とはっきり突き放したんです」
そしたらあんなことに、と言って水のグラスを引き寄せる。口に含んだとたん彼は眉間にしわを寄せた。
どうやら口の中が切れているらしい。
薄暗い照明でわかりづらいけれど、頬も赤く腫れているように見える。
わたしは店員を呼んで冷たいおしぼりを頼んだ。
「こんなきれいな顔を叩けるなんて信じられない。キズになったらどうするんだろ」
身を乗り出して広瀬さんの頬におしぼりを当てながら憤っていると、彼が笑い出した。