婚カチュ。


「はは、ほんと二ノ宮さんて変な人ですね」
 

わたしからおしぼりを受け取って、自分で頬を押さえる。


「そういうことって、ふつう思っても口にしないでしょ」
 

笑われて、わたしは急に恥ずかしくなった。

店員が突き出しとビールを運んでくる。店のドアが開いて「いらっしゃいませー」という威勢のいい掛け声が響いた。


「仲のいい友達なら別ですけど、あなたの場合はいきなりですもんね」

「わたしがいきなり何を?」

「僕の顔を好きだと言ったり」
 

飲もうと口をつけたビールを噴きだしそうになった。
おもいきり咳き込みながら目を上げる。広瀬さんは薄く笑っていて、顔から火が出そうになった。


「しかも真顔なところがすごい。僕を追い掛け回す彼女たちだって、そんなことストレートに言ってこないですよ」

「す、すみません」

「ほんとに、素直なひとだ」
 

口の中の傷に当たらないように器用にビールを半分ほど飲むと、彼はいたずらっぽく微笑んだ。


「素直ついでにひとつ」
 

テーブルの上で、長い人差し指をぴんと伸ばす。


「僕もあなたの顔、好きですよ」
 

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