婚カチュ。
 
料理が一通りテーブルに並ぶころには、店内も賑やかになってきていた。
客席にはスーツ姿の人間も多い。休日でも働いているひとは大勢いるのだ。ふと、泣き虫の弁護士の顔が思い浮かんだ。


「二ノ宮さんは好きな人と結婚したいとおっしゃっていましたけど、僕は必ずしもそうじゃなくていいと思ってる人間です」
 

不意に広瀬さんが口を開いた。
まるで告解のように、秘めていた感情を薄暗い照明の下にさらけ出す。


「結婚相談所のアドバイザーのくせにナンですが、俺は結婚に感情はいらないと思うんです」
 

驚いているわたしに、彼は寂しそうな笑みを見せる。


「好き同士で結婚したはずなのに裏切ったり裏切られたりっていうのを間近で見てきたので。大人の感情に振り回されて子どもはたまったもんじゃないですよ。好きっていう感情は相手を拘束するものだと思うんです。期待するから裏切られる。だったら最初っから打算のみで結婚してもらったほうが、誰も傷付かなくて済むでしょ」
 

それは結婚に夢をみていない、現実的な視点だ。

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