婚カチュ。
「わたしなんて、お父さん大好きですよ! ファザーコンプリートですよ!」
「……何を揃えたんですか」
「家族を好きっていえるのは、すごく幸せなことです!」
広瀬さんの冷静な合いの手を無視し、わたしは叫んだ。
店の中が一瞬、静まり返る。
目を見張っていた彼が肩を震わせて笑いだした。
黒いバンダナを巻いた店員がびくびくした様子で注文した串焼きを持ってくる。わたしは咳払いをした。
「……すみません。なんだかヒートアップしてしまって」
「ほんとにつかめないひとだよなぁ、二ノ宮さんは」
そう言って、彼は上目遣いにわたしを見た。
「ヘタレかと思えば根性据わってるし、醒めてるのかと思えば情熱的だし」
ウーロン茶をぶっかけたりね、と言って、また笑う。
恥ずかしかった。広瀬さんの顔をまっすぐ見返せない。
そんなふうに嬉しそうに笑うのはやめてほしい。
「そういう広瀬さんだって、年上好きのくせに」
反論になっていないけれど、一方的に笑われていることが悔しくて言い返す。
彼は一瞬きょとんとした顔をして、すぐに表情を崩した。
「ええ、そうですね。俺は年上の女の人、好きですよ」