婚カチュ。
大通りと違って薄暗い通りだった。
向こうに見える地下鉄の入り口は明るいけれど、坂の下からこちらは橋の中央に街灯がぽつんと立っているだけだ。
周囲から暗闇が圧迫してくるような息苦しさを覚える。
月はとっくにビルに隠れて、どこにも見えない。
橋の手前で広瀬さんが立ち止まった。同時にわたしも足を止める。
コンクリートの橋の真ん中、欄干にそってバイクが1台止まっていた。
いわゆる原付ではなく、バイク旅をするような人が乗っている単車だ。
真っ黒な車体が街灯に照らし出され艶めいている。
それはほとんど放置されている状態だった。
暗がりの中、橋の中央に浮かび上がる姿が恐怖心を煽る。
周囲に人影はなく、たんに駐車されているだけだというのに妙に不自然だった。
「なんか……不気味だな」
わたしと同じ感想を抱いたらしい広瀬さんがゆっくりと橋に近づいていく。
ここを通らなければ地下鉄の駅にたどり着けないのだ。わたしも彼のすぐ後ろを歩き出した。
そのとき、黒い影がバイクの座席からぼとりと地面に落ちた。