婚カチュ。


わたしは悲鳴を呑みこんでそばにあった手をつかんだ。
ほとんど同時に、広瀬さんの右手がわたしの左手を握る。

お互い無意識のうちに手をつないで、息を殺した。
 

地面にへばりついていた黒い影がぎらりと目を光らせる。
「にあー」とだみ声で鳴くと、すばやく橋の向こうに消えていった。


ふたりでその場に立ち尽くす。

静まり返った夜道の真ん中で、黒いバイクは相変わらず街灯に浮かび上がっている。
ふと、となりから声が落ちた。


「ね、こ?」

 
広瀬さんのつぶやきが消えると急に気が抜けた。
橋の前に立ち尽くしたまま、徐々におかしさが込み上げる。

手を繋いだままでどちらからともなく顔を見合わせ、そしてわたしたちは噴きだした。



「はは、はあ、やだもう、びっくりしたあ」

「黒いバイクに黒猫って、完全に一体化してたし」

「ほんとに」



しばらくふたりで笑い転げた。
顎が外れるんじゃないかと思うくらい、おかしくてたまらない。


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