婚カチュ。
「き、奇遇ですね。俺も、つい最近ここに登録したんですよ」
そう言うと、足元のビジネスバッグを拾い上げる。
「仕事の途中なんで、俺、行きますね」
そそくさとわたしの横を通り過ぎ、出入り口のドアに向かう。たった今わたしがくぐってきたドアが勢いよく開かれてベルが激しく揺れた。
くもりガラスの向こうで彼の影がエレベーターに乗り込んでいくのを確認し、わたしは広瀬さんたちに向き直った。
女性スタッフはわたしに小さく会釈をするとノートパソコンを抱えてスタッフルームに入っていく。
広瀬さんはメガネをかけているせいか、クレーム処理を押し付けられたからか、どこか不機嫌そうな表情でわたしを見つめていた。
「びっくりしました。今の彼、わたしの大学の後輩で、同じ会社なんです」
「そう……らしいですね」
短く答えると、広瀬さんは気を取り直したように薄く笑う。
「で、二ノ宮さんは今日どうされました?」
わたしはうつむいた。