婚カチュ。
ここ数日、電話の着信履歴を埋めるのは広瀬さんだ。
わたしは無視を続けていた。
アドバイザーとしての用事かもしれないけれど、あんなふうに投げやりな告白をしたあとでは、どんな心持ちで電話に出ればいいのかわからない。
「出るのがイヤならお母さんが出てあげようか?」
「えーいいよ別に」
ソファに寝転がったままテレビのボリュームを上げた。レオは犬用のフェザーベッドにうずくまり、ゴム製のおもちゃに夢中でかじりついている。
お笑い芸人が司会をするバラエティ番組には、金運特集と称して数人の成功者が出演していた。
いま話題の美人弁護士やどう考えても青年には見えない青年実業家など、視聴者の憧憬の的である人々が成功への道筋について語っている。
こういう派手な話はテレビで見ているだけで十分なのかもしれない。
自分でも憧れているんだと思っていたけれど、実際にそういう人たちと接して理解した。
わたしの部屋の机では、いつかのパーティーでもらった男性たちの名刺がいまだに山を築いている。
肩書きだけでは、わたしは感情を揺さぶられない。