婚カチュ。


「あの、このあいだはすみませんでした」
 

沈黙が続くことを恐れて、わたしは繋がった手を軽く引っ張った。


「母が勝手に電話に出ちゃって。しかも通話を切っちゃって」
 

通話を切ったのはわたしだけれど、この際母に泥をかぶってもらおう。
振り返った戸田さんが穏やかに目を細める。


「いや。まったく気にしてないから」
 

そこで会話を終わらせぬよう、わたしは言葉を続けた。


「うちの母親ったら失礼なんですよ」
 

きょとんとする戸田さんに、大げさに説明する。


「わたしが結婚相談所に登録していることを知ってるくせに、弁護士さんから電話があったって青い顔して、なにか困ってることがあるの? って」

「ああ、はは。弁護士なんてできれば関わりにならずに生きたいものだから」 

「いえ、知り合いにいたら心強いですよ」
 

そう言うと、戸田さんはなんとなく寂しげに微笑んだ。


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