婚カチュ。


神社沿いをまっすぐ歩き、横断歩道をわたったところで彼の足が止まる。


「ここです」
 

そう言われてわたしはあたりを見回した。


「え、どのお店ですか」

「これですよ、これ」
 

ごつごつした指が示す先を見て、言葉を失った。


テナントビルの1階に、全国的に有名なコンビニが一軒入っている。


「ここのジューシーチキンがもう最高なんだ」
 

戸田さんは少年のように生き生きと話しはじめる。


「うちの事務所のやつらはみんな好きで、休憩時間によく食べてます」

「は、はあ」
 

たしかに美味しいには違いない。
わたしも職場の近くのコンビニで買って食べたことがあるからそれが突き詰められたこだわりの味だということは知っている。でも、あまりにも予想外だった。

反応に困っていると、戸田さんは急にため息をついた。


「なんて、冗談です」

「……え?」
 

静かな口調に振り返る。見上げると、彼はどことなく切羽詰った表情をしていた。

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