婚カチュ。

 
法律事務所と言っても、ふつうのオフィスとあまり変わらないのかもしれない。

エレベーターを降りると正面に受付用の内線電話が置いてあり、通路の奥にドアが3つ並んでいる。


「うちは受付嬢がいるような大きな事務所じゃないから」
 

そう言いながら、戸田さんはいちばん手前のドアを開けた。
 
そこは応接室のようだった。
木目調の壁に囲まれた部屋の中央に、楕円形のテーブルがひとつ置いてある。椅子は全部で6つあり、壁と同じ色調の本棚には分厚い本が隙間なく並べられていた。
 
本棚を背にして座る戸田さんは絵になる。
このままテレビに男前弁護士として紹介されてもおかしくない。

しかし部屋の中の空気はどこか張り詰めていた。


「あの、確認したいことって、なんですか?」
 

おそるおそる口に出す。

戸田さんの顔からはいつのまにか笑みが消えていて、わたしはなんとなく背筋を伸ばした。
 
思い出されるのは一分の隙もない広瀬さんの顔だ。


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