婚カチュ。
 
あまりに予想外の名前が出てきて、わたしは固まった。
 
唖然としていると、彼は鉄観音に口をつけ、心を落ち着けるように息を吐く。


「君の、後輩だと言っていた」
 

愛犬のレオによく似ていて、大きな目をくるくると動かし表情豊かに笑う営業マンの顔が脳裏をよぎった。


「知ってるっていうか……、ついこのあいだも顔を合わせましたけど」
 

戸田さんの表情は厳しいままで、急に不安に襲われた。


「どうして、彼のことを」

「先日、彼に土下座されました」

「……ええっ!?」
 

思わず立ち上がりそうになった。
 
正面の弁護士先生をまじまじと見つめる。戸田さんは表情を変えず、静かにわたしの視線を受け止める。

まったく意味がわからない。

なんで松坂が、なんで戸田さんに。


頭がこんがらがって、ただただ呆然とする。すると彼がぼそりと言った。


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