婚カチュ。

2  ◇ ◇ ◇

 
勢いのまま入った部屋の中はたばこの香りがした。

洗面室にこもって荒ぶる心をどうにか落ち着け部屋に戻ると、松坂はドアの前から一歩も動かないで立ち尽くしていた。


「どうしたの? からだ、拭かないと風邪引くよ」
 

びしょ濡れの彼の足元には水滴がいくつも垂れてじゅうたんを濡らしている。
松坂はどこか放心したようにつぶやいた。


「先輩、俺……これ以上入ったら止められる自信ないから、ここにいます……」

「なに言ってんの。本当に、風邪引くから」
 

わたしが近づこうとすると、一歩退いた。


「いえ、あいつがいなくなったら帰るから、このままでいいです。こっち、来ないでください」
 

まるで怯える子犬のように身を縮め、強引なまでにわたしと視線を合わさない。


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