婚カチュ。
松坂はたぶんタイミングのいい男だ。神様から愛されているような気がしてならない。
どんなに努力をしても、ときにタイミングのいい人間に負けることがある。
そう言っていたのは誰だっただろう。
松坂が自分で肩を掻き抱き、大きなくしゃみをした。
傍らにはほとんど役に立たなかったわたしの折り畳み傘が置かれている。
「いいよ、こっちにおいで」
狭い部屋には一人がけのソファがひとつとセミダブルのベッドが置いてあるだけだ。
松坂はぐしゅんと洟をすすると、困ったような顔でわたしを見た。
「おいで、松坂」
もう一度呼ぶと、彼はおずおずと足を踏み出した。
ゆっくり、ためらうような足取りでわたしのそばまでやってくる。
正面に立ち尽くしたその顔は、ほとんど泣きそうだった。