婚カチュ。
「先輩はいつも真面目で、愛想笑いもしなくて、最初は正直恐かったけど、でも他の誰よりも一生懸命テニスを教えてくれて、俺が初めてサービスエース決めたとき、すげー喜んでくれたんです」
上擦った声は少し聞き取りづらい。
しゃくりあげるように小刻みにからだを揺らし、彼は続けた。
「先輩はいつも正直で、嘘笑いもしないから、めったに見せない本物の笑顔には、すげえ破壊力があるんです。ほんとに、俺はイチコロでした」
松坂の手がはだけたわたしの服をつかんだ。それは支えを求めるような手つきに見えた。
「それからどんな女の子と付き合っても、先輩の笑顔が見たくなるんです。あなたを喜ばせたくて、笑顔になってほしくて、俺」
低い声が震えた。
「好きです。9年間、ずっとあなたのことが好きだった」
「松坂……」
「なんでそんな顔してるんですか、先輩、笑ってくださいよ。頼むから」
傷ついて濡れた瞳が、まっすぐにわたしを見る。