婚カチュ。
「え……」
わたしは顔を上げた。
頬の黒点が小刻みに震えている。
彼は怒っている。
「僕の目を見て答えてください」
「あ、あの」
「プロポーズを受けるんですか? 戸田さんが好きなんですか? ちゃんと恋をしてるんですか?」
そのどれにもまともに答えることができなかった。
言葉を失っていると、広瀬さんは頬を歪めて笑った。
「そんなんで、本当に結婚していいんですか」
うるさい。
口に出しそうになって、あわてて唇を噛んだ。
「……なんで、そんなこと言われなきゃいけないんですか。広瀬さんは会員同士をマッチングさせられれば十分でしょ。わたしがどうしようと文句は――」
「ありまくりなんだよ」
低い声が部屋の中を静かに切り裂く。
一瞬、誰が言ったのかあたりを探してしまうくらい、聞きなれた広瀬さんの口調からはかけ離れていた。